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2016/12/15ア・トライブ・コールド・クエスト、J・コールなどの話題作に参加する日本人キーボディスト、BIGYUKI。アメリカでミュージシャンとして生き抜く姿勢と、ATCQラストアルバムの制作風景を聞いたスペシャルインタビュー!

cover-art.jpgア・トライブ・コールド・クエストのファンにとって、2016年は重要な年となった。3月、持病の糖尿病が悪化してファイフ・ドーグがこの世を去った。その8ヶ月後に、18年ぶりに『ウィ・ガット・イット・フロム・ヒア〜サンキュー・フォー・ユア・サービス』がドロップ。トライブ本体は、90年からヒップホップ史に燦然と輝く4枚の名作を 残して、98年に解散。2006年以降、パフォーマンスのためのリユニオンはあっても、アルバムが出る流れにはならなかった。個人的なことを書く。四半世紀前に出た、セカンド『ザ・ロー・エンド・セオリー』がもっとも聴き込んだヒップホップ・アルバムで、ハマースティン・ボウルルームで行われた解散コンサートでは哀しすぎて貧血を起こしかけ、トライブ時代に1回(よりによって解散発表直前)、Qティップとファイフは別々に1回ずつインタビューしている。思い入れが強すぎて突然のリリースをにわかに信じられず、クリックする指先が震えた。


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Qティップは、トライブは、私たちを裏切らなかった。急逝したファイフが名付けたため、残りのメンバーでさえ真の意味を知らない変わったタイトルを持つ5作目には、長年のファンならイントロを聴いただけで胸が熱くなり、現役時代を知らなくてもシンプルに「いい音楽」だとわかる、最高品質のヒップホップが詰まっていた。朗報は続く。ATCQ名義だが、この作品の99.9%Qティップによる。その彼の自宅スタジオでのプロダクションを関わったミュージシャンに、気鋭の日本人キーボディスト、BIGYUKIがいたのだ。自身のアルバム『グリーク・ファイアー』を今年リリース、Blue Note Tokyoで初の凱旋公演を終えたばかりの彼に、アメリカでミュージシャンとして生き抜く姿勢と、ラストアルバムの制作風景を聞いた。


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◆自分で音楽制作をしつつ、セッション・ミュージシャンとして様々なレコーディングにも参加して多忙だと思いますが、スケジューリングは自分でされているのですか? 

 「いいカレンダー・アプリがあるので、自分でやっています。今回も飛行機に乗るギリギリまでマティスヤフー(オルタナ系のレゲエ・アーティスト)のレコーディングに参加していました。10月は彼のレコーディングの準備 で毎日朝10時からスタジオに入って、夜はテレビの仕事をして(トーク・ショウのバンド・メンバー)、それが終わったらタクシーに乗ってQティップの家に行って‥という生活だったので、さすがに疲れて暗くなりました」


音に出ました?

「顔に出ました(笑)


優先順位をつけるのが大変そうですね。

「実は、ついこの間、12月にトライブのバックバンドとして、ジミー・キンメルの番組に出る話が来たんだけど、ヨーロッパにいるタイミングだったから仕方なく断りました。初めてバンド演奏をする機会だったからすげー出たかったんですど」


YUKIさんは ジャズをベースに、多くのジャンルを横断しています。違う音楽を演奏して切り替えるときに心がけていることがあれば。

 「それぞれのジャンルに特有のボキャブラリーがあると思うんですよ。ドラムが4つ打ちとか、そういう最低限のルール。そのルールを理解した上で、自由な音を乗せていく。僕は、ジャズのルールを完全にはわかっていない落ちこぼれだから、自分をジャズ・ミュージシャンとは呼ばない。例えば、ジャズ・ミュージシャンがヒップホップのボキャブラリーを持っていないのに、ロバート・グラスパーみたいにやろうとすると、大体ダサくなる。彼は深いところで理解しているから差が出るんです」


YUKIさんも違うジャンルを演奏する時は、自分の中にあるボキャブラリーを切り替える作業をしますか?

「レゲエとかは自分にとって新しい音楽の場合は、周りから学びながら演奏しますね。だから、すごく新鮮。周りにこれでサウンドしているか(うまく響いているか)確認しながら弾いて、自分なりのカッケー音楽を乗せていく」


バークリーでジャズ・ピアノを学びながら、教会で本物のゴスペルの触れたのも大きかったように思います。 ブラック・ミュージックのシンガーやミュージシャンは教会音楽の素養がある人が多いので。

「毎週日曜日 に早起きして、礼拝で弾く生活を7年近くやっていました。パイプオルガンも弾けと言われたけれど、怖いからイヤだって断ったり。 黒人が多い地区の教会だから、たまにアジア人が来ると親戚か? って言われちゃうような環境でした」


 クリスチャンですか?

「違います。そこは、少し葛藤があった。当時はゴスペルが一番好きだったんです。最初はドゥービー・パウエルとかコンテンポラリー・ゴスペルを聞いて。そこで出会ったのが、イエロージャケッツでドラムを叩いていたマーカス・ベイラー。彼の奥さんが、昔、ジャネイにいたジーン・ベイラー 。ジャネイ、知ってます?」


知ってます。日本では R&Bデュオとして根強い人気があります。

 「その3人で演奏したり。チャーチでやっていたバンドのメンバーも、いかつかったんですよ。ルイス・ケイトーとか。彼らとはゴスペルだけでなく、音楽全般を演奏して、めっちゃ面白かった。その間、そういう状況でどう自分を伝えるかも身につけたし」


ステージのセッティングがピアノとキーボード(シンセ・オルガンとシンセ・ベース)と独特ですね。右手でピアノの旋律を弾きながら、左手のシンセ・ベースを弾くのは、とても難しい気がします。

「簡単ではないですね(笑)。いいところは、左右を意思疎通させる時間差がゼロ。展開を作りたいな、と思って左手でベースラインをバッと変えた時に、右手でピアノの音をぴったり合わせられる」


そのスタイルに行き着いた経緯を教えてください。

「シンセ・ベースは最初からあります。BIGYUKIのサウンドでいうと、シンセ・ベースがコア(核)。でも、 一番根っこにあるのはクラシック・ピアノですね。シンセ・ベースを始めたのは、バークリーでフージョン・バンドをやっていたとき、スタジオの親父さんが余っているシンセ・ベースをくれたのがきっかけです


トリオという形態も面白かったですが、全身で演奏する姿が印象的でした。

 「昔からそうだけれど、マティスヤフーのバンドとして参加しているうちに、大きくなってきたかも。会場のサイズに合わせて動くことに対して抵抗がなくなってきた、というか」


BIGYUKIのバンドとして演奏しているのを、Qティップが見に来たことはありますか?

 「1回、ローワー・イーストサイドの小さいライヴハウスに、バンドの仲間を引き連れて来てくれました。終わった後、すごい良かったって連絡をくれた」


前回のインタビューでは、Qティップの頭の中で鳴っている音楽をミュージシャンが形にしていく、と言っていましたが、 曲のコンセプトやアルバムの意義を言葉で伝えることありますか?

 「全くないですね。そういうやり方をする人もいるけれど、僕もそれはやらない。リリックより先に音を作ることの方が多いし。彼の中では同時進行で、アイディアがあったんでしょうけど」


自分が参加した時と、出来上がった音でだいぶ変わっていた曲と、予想通りだな、と思った曲があれば教えてください。

 「全然違うのはないんです。声が乗る前の状態しか聞いていなかったので、出来上がった音を聞いた時は、単純に嬉しかったですね。最初に聞いたのは、MOMAPS1で行われたリスニング・パーティー。バスタ・ライムズも来て、Q&Aをやっていました」


 ファイフ以外に、声入れに立ち会った人はいますか?

 「スウィズ・ビーツ。って、彼は入っていないかな? 他のアルバム(に収録される)かもしれない。いろいろ声色を使って、ハイプマン的なことをしていました。あとアンドレ3000


ファイフの印象を教えてください。

 「会ったのは亡くなる1週間前で、すぐレコーディングに入ったので握手しかできなかったんです」


亡くなったあと、Qティップはきつかったでしょうね。

「亡くなってから2週間後に会ったけれど、その話はしなかった。言葉に詰まる瞬間はありました」


Qティップはレコード・コレクターとしても知られていますが、セッション中に特定のレコードをかけることはありましたか?

「コレクションは見せてもらいました。ジャズ・ピアニストの、アンドリュー・ヒルのアルバムを見せてくれて、この曲好きだから使いたいと言っていたのが、実際に使われました(Andrew Hill/ Lift Every Voice)」


ライターとしてクレジットされている"Melatonin"では、イントロの宇宙を連想させるピアノがYUKIさんっぽいと思ったのですが。

「あ、俺っすね。メロトロンの電子ヴァージョンがあって、そのピアノ・サンプルを使って弾きました。"Donald"のアウトロも俺です」


 メロトロンってとても高額な楽器ですよね。

 「復刻版でも2000ドルくらいしますね。彼の右腕のエンジニアが機材オタクで、フランク・ザッパが持っていたテープ・マシーンとか、クリームが使ったディレイのペダルとか持ち出してきて使っていました」


 本物ですか? 博物館みたいですね。

 「まさに。ポスト・プロダクションでは相当使っていると思う」


遊びに来た人全員に紹介してくれるようなフラットな人柄だとか。

 「彼は、フェアーな人。アルバムがリリースされた後で、バンド全員にくれたメッセージもすごくかっこよくて。"君たちの、アルバムが1位になっておめでとう"って」


 その<Your>は大きいですね。みんなの作品だと。

「それから、ア・トライブ・コールド・クエストという恐竜を復活させる手伝いをしてくれてありがとう、って(thank you for helping me resurrect this dinosaur known as A Tribe Called Quest "


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Qティップ自身がATCQを「恐竜」と呼んだこと。この作品が、完全なる復活であり、終止符であること。それを日本人のBIGYUKIから聞けて、感慨深かった。ファイフがいないのは寂しいけれど、2017年はこのアルバムを引っさげてのツアーも予定されているという。BIGYUKI自身は、12月にヨーロッパでコンサート、1月はニューヨークのウィンター・ジャズ・フェスティバルに出つつ、次の作品のレコーディングに取りかかる。J・コールの新作に参加し、Qティップとは引き続き音楽を作り続けるから、彼の名はこれからも目にするだろう。 次回、彼に会えるのは、Qティップやジャロビの後ろでキーボードを弾いているときかもしれない。本当に楽しみだ。


取材/文:池城美菜子


【ア・トライブ・コールド・クエスト: リリース情報】

cover-art.jpg

ニュー・アルバム『ウィ・ゴット・イット・フロム・ヒア・・・サンキュー・フォー・ユア・サービス』

<配信/輸入盤>

発売中

iTunes購入リンク:

https://itunes.apple.com/jp/album/id1173106678?app=itunes&ls=1

<国内盤CD

1221()発売予定

 

【トラックリスト】

1. ザ・スペース・プログラム

2. ウィー・ザ・ピープル....

3. ホワットエヴァー・ウィル・ビー

4. ソリッド・ ウォール・オブ・サウンド

5. ディス・ジェネレーション

6. キッズ...

7. メラトニン

8. イナフ!!

9. メビウス

10.ブラック・スパスモディック

11.ザ・キリング・シーズン

12.ロスト・サムバディ

13.ムーヴィン・バックワーズ

14.コンラッド・トーキョー

15.エゴ

16ザ・ドナルド

 


【BIGYUKIリリース情報】

UCCU1515.jpg

ニュー・アルバム『グリーク・ファイヤー』

発売中

iTunes購入リンク:

http://apple.co/2hs3ITY

 

【トラックリスト

1:レッド・ピル

2:ジョン・コナー feat.ビラル

3:パラダイス・デセンデッド

4:フレッシュリー・スクイーズド

5:ブルー・ピル

6:グリーク・ファイアー

7:レヴォルーション・アス feat. クリス・ターナー&グレゴア・マレ

8:ウェスト・サイド・ガール・リミックス★

★日本盤ボーナス・トラック



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